毎日メディアカフェでの開催イベント 第二回は、『男たちと語る「#子育て×政策」』と題して、5/2に開催いたしました。
GWの谷間にもかかわらず、多くの方に参加いただき、たいへん盛り上がりました。
なお、今回は男性に焦点を当たこともあり、参加者の半数が男性となりました。
以下に開催時の様子を報告いたします。
目次 [表示]
開催概要
【開催日時】
2018年5月2日(水)
17時30分 開場
18時00分 第一部トークセッション
19時15分 第二部ワークショップ
20時10分 終了
【開催場所】
・毎日新聞東京本社(竹橋:パレスサイドビル)B1「毎日ホール」
【主催】
・毎日新聞 × GARDEN × 希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会
【参加者】
・総合司会: 堀 潤 氏 (ジャーナリスト)
・登壇者: 青野 慶久 氏 (サイボウズ株式会社 代表取締役社長)
・登壇者: 田中 俊之 氏 (大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授)
・登壇者: 長岡 平助 氏 (毎日新聞 記者)
・登壇者: りょうたっち 氏(*ツイッター名、3人の子育てパパ)
・(C)グラッフィックレコーダー:清水淳子さん
・一般参加者:100人(男性比率:約50%)
当日は、後に生放送を控えてお忙しい中引き受けていただいた堀潤さんを総合司会に迎え、進行していただきました。
また、グラフィックレコーダーの清水淳子さん(http://tokyo-graphic-recorder.com/)によるグラフィックレコーディングが行われ、活発な議論が可視化されました!
【第一部:トークセッション】
第一部では、今回のテーマである「#子育て×政策」について、登壇者がそれぞれの立場から発言した後、トークセッションを行いました。
まず最初に、「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」代表の天野妙から、FACTが共有されました。
[FACT.1:共働き社会の現状は?]
・現在、共働き世帯数が専業主婦世帯数の2倍となっている。
・しかし、第一子出産時に妻の5割が離職している。
・これは、女性の多く(56%)が非正規であるため復職できず、就業を継続しにくいという状況に要因がある。
[FACT.2:どのくらい少子化か?なぜ少子化になるのか?]
・現在は、今の40代の半分以下しか生まれていない。
・理想の数の子どもを持たない理由には、お金の問題に次いで、夫の協力が得られず、育児の負担が妻側に片寄っていることが挙げられる。
・実際に夫の家事・育児にかける時間が多いほど、第二子以降が生まれているというデータがある。
・しかし、日本の男性は、家事・育児にかける時間が海外と比べて低い。
[FACT.3:男性側の心情はどうか?]
・労働時間が長く子育てしながら働くことができないと考えている。
・一方で、育児休業を取得したい、取得したかったと考えている。
以上のFACTを踏まえて「男性が家事・育児に積極的に関われていないのはなぜか?」という点について、各登壇者からそれぞれに意見(OPINION)が出されました。
OPINION:青野さん
青野「どやっ!FACTです!」
と言ってサイボウズの離職率と売上高の変遷のグラフが出されました。
社長である青野さん自身が率先して育児に関わり働き方を変えた際、周囲からは売り上げの低下を心配する声が上がったといいます。
しかし、実際には働き方改革を進めても、改革と売り上げを両立することができたことが示されました。
また、「父親」と「子育て」が「政策」や「経営」と離れている理由について、家庭を顧みずに働いてきた男たちが政治や企業のリーダーとなってきたことにあるのではないか?そうやって働き方に関心が薄い男性が経営者となったことで、過労自殺などの問題を引き起こしてしまったのではないか?と、「経営者の責任」が問われている状況を語られました。
その一方で、今言われている働き方改革には、大きく2つの課題があるとも…。
・「生産性が低い」働き方(経営者の課題)
・「幸福度が低い」働き方(労働者の課題)
そして、「働き方改革と言っても会社ごとに状況が違うので、個別に解決策を考えないといけない」
という意見が出されました。
OPINION:田中さん
田中「『男は仕事、女は家庭』から『男も女も仕事も家庭も』という共働き社会へと転換しているのが今の現実です」
しかし、これまでのイメージ(男性稼ぎ手モデル)と現実(共働き社会)がずれているにも関わらず、イメージを信じていることが多くあります。例えば、80年代に30代だった人たちが今の経営者だとすると、自分や部下の妻は結婚・妊娠・出産のタイミングで仕事を辞めてきたという事実を見てきています。その事実に基づいて信じられているイメージと今の現実が対立している中では、様々な点で疑いを持つ必要があります。
この疑うということ(懐疑)が重要であり、「真摯で一貫性のある懐疑=寛容の源泉」となるものです。
他方、多様な課題が存在する中で「一番怖いのは実は無関心(消極的寛容)」です。
「無関心の何が怖いかというと、表面上は優しいのだけど自分の身の周りにそういうこと(保育園建設など)が起きた場合に反対(不寛容)」に変わるという点です。
ですから、「私たちが作っていかなければいけないのは『積極的寛容』」です。
そのために「面と向かって話すということは極めて重要」であり、「人と人が長時間対話するとお互いに影響を与え合う」ことになります。
そうなれば、相手の信義や価値観を『それはおかしい』『お前は悪だ』『こっちが正義だ』とはなりません。
ですので、みなさんが社会を変えようとするのであれば、「いろいろな人たちと対話する機会を作っていくことを大切にして、社会全体をどうしていくかというビジョンを持つ必要がある」
という意見をいただきました。
OPINION:長岡さん
長岡「夫に家事育児をしてほしいと思っている妻がいて、夫も家事育児をしたいと思っている、にも関わらずできない現状はどうしてあるのか?」
毎日新聞 長岡記者は、約3か月の育休を取得し「負担の重い『名もなき家事』」という記事を書かれた方です。
「『多様性』という観点から、家事育児の引き受け度合いについては、夫婦の間で合意ができているなら問題ないと考えている」という前提に立ったうえで、上の意見を投げかけられました。
また、「最近よく聞く「一億総活躍」「女性活躍」という言葉がありますが、『よき妻であり、よき母であり、よき職業人であれ』などと(すでに負担が偏っている中で)女性に対してここまで過酷なことをよく言えるものだと」思いますと、憤りをこめて語られました。
そして、自身が編集で携わった書籍からの引用で「『男は一本道で逃げ場がない。』女子漂流(毎日新聞社刊)より」という言葉を紹介し、この言葉が示すように、男が家事育児をできない要因には「良い学校を出て、良い会社に入って、良い稼ぎを得る」という道を歩かされていることがあるのではないか?
という意見が出されました。
OPINION:りょうたっちさん
りょうたっち「プライドか見栄か?イクジナシになる分岐点」
りょうたっちさんは、共働き家庭で3人の子どもを育てる父親です。
「仕事も頑張りたいし、家庭にもコミットしたい」と奮闘する育児パパアカウントとして多くのフォロワーがいます。
育児との距離が遠い男性をもっと育児に近づけるために、ふたつの視点を紹介されました。
これまでの男性にとって、子育ては仕事の足を引っ張るものと思われてきました。
しかし、人生100年時代と考えると、仕事期間を過ぎてから過ごす人生の時間が長くなります。
仕事以外の人生に彩りを与えるものとして、子育て期間は大事であり、また、仕事以外の活動(ボランティアなど)に参加するのもよいのではないでしょうか?
また、ご自身の経験として、奥さんから「この日、子どもの面倒を見てほしい」と言われたときに、仕事を理由として反射的にできないと言っていた時期があったそうです。
しかし、「これはプライドでなくて、見栄ではないだろうか?」と思い至り、自分が一番大事な人が「助けてほしい」と言っていることに真剣に向き合おうと考え直したそうです。
その結果、今は一歩立ち止まって胸に手を当てて考えられるようになり、会話ができるようになってきました、との意見を述べられました。
トークセッション
トークセッションからは、来場されていた毎日新聞 取締役の小川 一さんも参加しました。
小川 一さんは「元祖イクメン」として1月に開催したイベントにも登壇いただきました。
[これまで出たOPINIONを聞いて]
青野「男性の家事・育児への関わりや働き方は、私が育休を取った8年前からあまり変わっていない」
小川「私が子育てしていた頃は、雇用機会均等法の成立以前であり、女性は子どもを生んだら仕事を辞めるという時代でした」「そのころからある『子育ては女性のものである』という昭和の価値観を持っている方がまだ残っているという印象です」
小川「社内に対しては、子育てに関わりつつもキャリアを積むことはできるというひとつの例として、生き様を見せることで、風土を変えていければと思っています」
[社会問題をどう共有していけばよいのかについて]
田中「社会問題を語る場合は、同じ問題意識を持ったものが集まると、ひとつの結論を求めがちになります」「社会問題を訴える側は多様な立場があることを意識して、俯瞰した視点を持つことが大事です」
堀「相手をいきなり否定するのではない、事実を共有する対話の場が必要ですね」
天野「女性の問題とされてきた領域に男性が入ってくることは大事だと考えています」「政策を動かすキーマンはまだ男性が中心なので、同じ男性から発信してもらうことが必要です」
天野「まずは、育児に関わる当事者男性、次は育児を卒業した男性、そして、これから関わっていこうとする若者へと、発信の輪が広がっていけばと思っています」
[当事者男性による発信について]
堀「何を語りかけていくことがアプローチになりますか?」
長岡「当事者男性から語りかけていくのであれば、やはり体験を語っていくことが必要と思います」「男性が家事・育児に参画することで、何が良くなるのか?という点を語っていければ、良いと思います」
青野「例えば私の体験ですが、もともとワーカホリックの私が育休を取ったきっかけは、文京区の区長が『取ったら会社に取材が来るよ?』とけしかけてくれたから、ということがあります」「私は経営者だから、会社にとって経済的メリットがあると思えば動けるんです」
田中「当事者意識を持たせるのは極めて重要です」
「男性の生き方はみんなよく似ていて、就職したら40年フルタイムで働くことになります」「そうやって仕事ばかりしていて、趣味や友達がいないと、定年退職後に孤独な生活が60歳から30年も続くことになりますが、それでいいですか?と…」
「働き方改革や女性活躍の話は将来的に『自分が困る話』であると、男性たちが当事者意識を持てば変わるはずです」
りょうたっち「私はTwitterで子育ての話をよくしており、フォロワーさんたちとランチミーティングなどで直接話をする機会なども設けています」
「また、会社でもよく相談を受けていて、自分の身近な範囲ではあるけれども、あとに続く人たちのために自分の体験を語るなど地道に活動しています」
「私はネットの中にいた育児する男性たちに救われたので、ペイフォワードの精神で続けています」
[出会う機会がないことについて]
堀さんが「参加者の方で、子育てについて語れる父親同士のコミュニティを持っている男性はどのくらい居ますか?」と問いかけると、会場の男性の約1/4が手を挙げ、子育ての話をする男性の仲間がいるとのことでした。
その中のおひとりに伺ってみると、「保育園や住んでいる場所の近くで、コミュニティをつくり広げています。でも、実際にはお父さんたちは忙しすぎて、出会う機会がなかなかありません」ということでした。
堀「働く時間帯も違う中で、どうやって接点を得れば良いのでしょうか?」
青野「PTAや保育園のパパともとのつながりは、長時間労働をしていると作ることができない。」
「男性育休も私の後になかなか続きませんでしたが、パラパラと出てくるようになってからは、あっという間に当たり前になりました。今では「なんで育休を取らないの?」と聞かれるくらいになっています」
[子どもを誰が育てるのか?という社会的認識について]
また、堀さんから「他の観点でなにかありますか?」と問いかけると、参加者の男性から「そもそも子どもを誰が育てるべきか?という感覚に社会的な認識のズレがあるのではないでしょうか?」という質問が上がりました。
「保育園に預けるべきか、そうでないか?」「保育園に預けるにして、どこまで社会が関わるべきか?家庭で育てるべき割り合いはどの程度であるのか?」「家庭の中で子育てするのは、男性であるべきなのか、女性であるべきのか?」「まず、その社会的な認識の問題があると考えます」と。
田中「子育て支援の問題については、欠けてている論点が沢山あります」
「例えば、カナダでは子育て支援と言えば親支援を含みますが、日本では親の支援にはなかなか入っていません」「子育てによるストレスもありますが、これも日本ではなかなか認められていません」
「子育ての問題は、家庭の中で自助で対応すべきという批判が強く、社会によるケアがまだ足りていません」
小川「セクハラという概念は、かつて女性の問題として小さなグループに押し込められていたが、社会に通じる概念に変わってきました」
「子育てを社会の中心にするという認識も、子育てを優先順位のNo.1に持ってくれば、社会はあっという間に変わる。これをみんなで目指していければと思う」
と、以上のようにトークセッションでは熱い議論が交わされました。
【第二部:ワークショップ】
ワークショップに先立ち、トークセッションを対象に実施いただいたグラフィックレコーディングのボードを前に、堀潤さんから内容の振り返りがありました。
その後、参加者でどのテーマが良かったか、続くワークショップでどの課題を話し合いたいかという視点で、各々シールを貼りました。
引き続き行われたワークショップでは、5,6人のグループで選んだ課題について話し合われ、熱を帯びた活発な意見交換がなされました。
【最後に】
最後に当会のメンバーからこれまでの男女共同参画に関する政策の変遷と、男性の子育て参加が求められている現状を紹介しました。
「男も女もフェアに」という想いから、男女雇用機会均等法が作られ、
「仕事も育児も大事」にできるようにと、育児介護休業法が整備され、
「男も子育てしよう」との考えで、パパママ育休プラスやイクメンプロジェクトが始まっています。
次の世代を育てることは、私たちの大切なミッションです。
「『子育て』をみんなの真ん中に」というメッセージで、締めの挨拶とさせていただきました。
【掲載情報】
当日のうちに、毎日新聞の中村かさね記者が終了直後に記事にしてくださいました。
また、当会のTwitterアカウントで実況ツイートをしておりましたが、それも含めモーメントにまとめてくださいました。
ぜひ、併せてご覧ください。